パンの笛

久しぶりで木々の間に心地よくパンの笛の音がこだました。丘の上からは初秋を思わせる涼しい風が吹いてくる。季節は巡る。まだ蝉の声はあるが、少しずつ小さく弱くなっていく。カナカナカナカナ・・・甲高い涼しげなヒグラシの声が聞こえた。

短い夏だった。梅雨明けが例年より遅く、真夏らしいギラギラした太陽が照りつける日が少なかった。それでも真夏には笛の音は響かず、フラストレーションが溜った。これから段々と笛吹きには良い天気となるだろう。

今日ものどかなモルドバの民族音楽を奏でる。気持ちがゆっくり落ち着いていく。日常を離れてどこまでも深い茜色の空に静かに音が溶けていく。目を閉じる。瞼の内が熱くなる。音は果てしなく続く。やがて疲れきって心地よい眠りが訪れるまでこのまま吹いていたい。

この時は何者も私を妨げるものはない。随分久しぶりだから木立を吹き抜ける風が私の音を運んでいく。滑らかに静かに。

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