魔の20分

これまでの26年間におよぶ海外勤務、海外出張で私は直接的な被害、実害にあったことが無かったのだが、とうとう運が尽きた。それもわずか20分間の不注意で。ある日仕事場にいる日本人全員で昼食をとりに行こうということになり、車で出かけた。全員で6名。その帰り私は車両の一番後ろの補助席に座っていた。四輪駆動の大きな車であったが、補助席は狭く、足をかなり開脚しなければ座ることができない。レストランで支払いを済ませ、おつりのやり取りを車の中で行っていた。

私は普段から財布をズボンの前右ポケットに入れている。これは習慣となっており、日本国内にいる時も海外でも同じだ。前のポケットは比較的深く、右利きの私にとって出し入れするのに都合が良い。この時もポケットから財布を出し少し多く払い過ぎた分のお釣りを他の人から受け取り、財布に入れるとポケットに収めた。その20分後事務所へ戻った私は、事務室のデスクで仕事を始めようとした。が、何かズボンが軽い。右手を入れると財布がない。きつねにつままれたような気持ちで歩いてきた後をたどった。が、どこにも落ちていない。

「車の中だ。」と思って、慌てて車に戻り探したが消えている。運転手に聞いたが知らないと言う。大いにあせった。中にはクレジットカード、銀行のキャッシュカード、スーツケースの鍵、運転免許証、健康保険証、航空会社のマイレージカード、○○カメラのポイントカード、家の金庫の鍵、各種病院の診察券、現金約6万円相当が入っていた。「やられた。」意識が遠くなっていく。現金は仕方がないとして、クレジットカードと銀行キャッシュカードはまず紛失の連絡し、使用停止措置をかけなければならない。拾った人に悪意があれば不正に使用されてしまうからだ。しかしすぐに国際電話をかけられる環境にはいなかった。

ホテルへ戻り、インターネットで検索して連絡先電話番号を探し、国際電話をかけた。すぐにつながらず、録音音声が流れる。そうしている間も電話料金は上がっていく。ここから日本への電話料金は分単位で計算され、5分も話すと2,000円近くになる。ようやく緊急時のオペレータにつながり、話が始まるのだが、本人かどうかの確認のため住所、氏名、生年月日・・・と確認事項が続き、長い質問が続く。電話料金のことを説明した上で「急いでくれ。」と言っても、「一応すべてお伺いしないことには手続きが終わりませんので。」と決まり文句。「切羽詰っている相手の気持ちが伝わらないのだな。」とやりきれなさを感じた。1金融機関あたり30分近くかかり、すべて連絡を終えるまで1時間30分もかかった。現金を無くしているので、残り手持ち現金で足りるかどうか不安である。帰国してもキャッシュカードが再発行されるまで引き出しができないし、先の不安がよぎる。この時点ですっかり消耗した。

前回の海外出張から帰国して日本にいた3日間に使用したものすべてが財布の中にはいったままであった。普段であれば出発前に出張先で使わないものを置いてくるのだが、今回は十分チェックする気持ちの余裕が無かった。それが失敗の元。

これで終わらない。次は念のため紛失届を当地の警察署に発行してもらわないといけないと思った。日本のように方々に派出所や警察署がなく、中央警察署まで車で行った。長くなるので、この続きは次回へ。

この記事へのコメント

リクリク
2012年03月06日 02:03
私も40年近く海外で仕事をしていますが、現金とカード類は別々に携帯しています。私の場合は財布はボタンのある後ろ右ポケット、カードケースは同後ろ左ポケット、現地通貨は数千円分づつ、上記以外の3箇所のポケットに裸で、現地人の前では決して大金は出しません。
パスポートは縮小コピーを、カード会社・銀行連絡先もコピーをフィルムコーティングし携帯しています。

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